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2020.11.11 エコノミスト・ストラテジスト・レポート ~鳥瞰の眼・虫瞰の眼~

米国大統領議会選挙の結果が株式相場に与える長期的影響について

米国の大統領議会選挙の結果がほぼ出揃った。大統領府は僅差で民主党、上院の過半数は僅差で共和党、下院の過半数は民主党のままとなる可能性が高い。主要メディアによる事前予想では大統領選挙での圧勝を含め全てを民主党が支配するトリプルブルーの可能性が高いと見られていたので、かなり異なる結果となった。しかも、これは戦後初めての絶妙な組み合わせで、長期の米国株式市場には好ましい結果だと考えられる。というのも、長期的に米国の株式相場は2つの大きな構造的要因で決定されてきたが、両面でプラスになる可能性が高いと考えられるからだ。

構造的要因の第一は企業での労使関係で、端的に言えば労働と資本の力関係だ。労働側が強いと、処遇に不満があればストを行い、生産性と比較して分不相応な賃上げを要求する。これは1970年代にはごく普通だった労使慣行だった。株価には当然大きなマイナス要因だ。逆に資本側が強いと、解雇などリストラを実施して株価を持ち上げようとする。株価が上手く持ち上がれば、経営者は自分の報酬を引き上げようとする。1990年以降に広く一般化した慣行だ。株価には当然大きなプラス要因だ。

構造的要因の第二は米国の覇権の安定性だ。経済が絶好調な時代の米国は、強い経済力を背景に覇権国家として君臨することで世界の秩序が安定する。そして、好況が長く続くと明白な天命(Manifest Destiny)に目覚め、自由と民主主義を世界に広めようと積極的に世界中に介入する。たとえば、「黄金の60年代」と呼ばれて好調だった後のベトナム戦争、財政黒字を達成するほど好調だった90年代クリントン時代の後のイラク戦争だ。しかし、長い伝統を持つ国家や民族の歴史は、短期間で簡単に変えられるものではない。結局は巨額の戦費と人的被害により、米国は経済が疲弊して覇権が陰り世界の秩序は不安定化する。ベトナム戦争の後の70年代のカーター危機の時代、アフガン戦争とイラク戦争で現地情勢が泥沼化してIS(イスラム国)が生まれ、多数の米兵を駐留せざるを得ない状況で中国が一帯一路で陣営を拡大して南シナ海や東シナ海で軍事拠点を構築した時代だ。

下の図(注)は戦後の米国株式相場を消費者物価で実質化したものだ。戦後の米国株式相場は5つの局面から成り立つ。5つの局面は、主に第一に企業の労使関係、第二に米国の覇権の安定性の2つの構造要因で決定されてきた。

  1. は1950-1968年だ。労使関係は生産性を基準とする政府の賃金政策により双方が納得する極めて高い安定感を示した。米国の覇権も東西冷戦を背景に西側陣営は米国のマーシャルプランやNATO創設で安定した。2つの構造的要因の安定を背景に株価は順調に上昇した。
  2. は1969年から1980年だ。ジョンソン政権の結果の平等を志向した「偉大な社会」構想を背景に、労働組合が過度な影響力を持ったことでストが頻発して経済はマヒし、1970年代には2桁のインフレが常態化した。米国の覇権は、ベトナム戦争の敗戦で不安定化し、イランではホメイニ革命と米国大使館人質事件が発生した。米国は貿易赤字に転落したことなどによりドル不安も発生した。2つの構造的要因の不安定化を背景に、株価は10年以上の長期にわたり低迷した。
  3. は1981年から2000年だ。レーガン政権による組合つぶしが奏功し、労使関係は労働組合優位から株主優位に豹変した。米国の覇権も安定を回復した。レーガンは対ソ連宥和のデタント路線から「悪の帝国」と呼んで強硬姿勢へと転換し、90年代にはソ連崩壊に追い込んだ。労使関係と米国の覇権の両方の構造的要因が安定性を回復したことで、株価は約20年の長きにわたり上昇した。
  4. は2001年から2016年だ。ワシントンコンセンサスと呼ばれた市場原理主義を武器にグローバル化を押し進め資本側はその利益を得たものの、労働側は新興国へのアウトソーシングにより賃下げが進み、所得格差は大きな社会問題となった。米国の覇権は、2001年に911テロはあったものの、その後の軍事攻撃でむしろ逆にグローバル化と相まって世界一強の地位を一度は確立した。とはいえその後の統治には失敗してIS(イスラム国)の樹立を含むイラク戦争の泥沼化と中国の台頭で米国の覇権は揺らぎ始めたものの、不安感を惹起する大きな事件はなかったことから、表面的には安定を維持した。株価は、労使関係が歪な資本優位だったことから2000年のITセクターと2007年の住宅セクターの2度のバブルの生成と崩壊により、大きな方向性として横ばいだった。
  5. は2017年以降だ。トランプ大統領はグローバル化で生まれた「忘れられた人々」の支持を背景に大統領になった。アンチビジネスから規制緩和や法人税減税など伝統的な共和党のプロビジネスに転換すると同時に、中間層向け減税により所得格差は縮小、更にオピオイドの禁止や不法移民の排除などを実現し、失業率は1960年代以来の3%台まで低下した。労使関係では大きな変化はなかったが、社会政策として労働者の地位向上には注力した。米国の覇権の安定性の面では、対中宥和姿勢から強硬路線に転換した。ただ、日本など同盟国に対しても一方的な関税引き上げを実施したことから、米国の覇権の立て直しに本当に寄与するのかどうかは疑念視された。株価は上昇基調に戻ったが、プロビジネスな政策はプラス、労使関係はややプラス、覇権の安定性はマイナスとなり、大きな上下の振れを伴った。

こうした中で2020年の大統領議会選挙を迎えたのだが、長期的に株価を決定する2つの構造的要因について以下のように理解できる。

労使関係は、もしトリプルブルーになっていたら、過度に労働が資本に対して優位になるリスクがあった。民主党は最低賃金の引上げ、実態上の黒人優遇、企業に対する規制強化、健康保険制度の企業負担の増加による充実をなど公約としていた。しかし、上院をプロビジネス志向の共和党が支配しそうな事から、急進的な労働者保護は不可能になったと見做してよいだろう。バランスのとれたステークホルダー資本主義へと徐々に向かう可能性が高くなったと評価できる。

米国の覇権の安定性について、ワシントン全体の総意として強硬な対中スタンスは変わらないと見られている。しかし、親中派とみられているオバマ時代の安全保障担当の大統領補佐官スーザン・ライスが国務長官候補に取りざたされるなど、対中スタンスが宥和姿勢に変化する可能性がないわけではなかった。しかし、閣僚など政治任命職や最高裁判事の人事は共和党が過半数を制しそうな上院での承認を必要とするため、バイデン政権の意向だけで決定できない。むしろトランプ時代よりも同盟国と歩調を合わせた対中封じ込め姿勢になることで、覇権の安定性はむしろ強まる可能性も高くなっている。

短期的にはコロナ禍対応の景気対策が、早期に成立する可能性は小さくなったことはマイナスだ。しかし、株価を決定する長期の構造要因が良い方向に向かうと想定される。歴史的に米国は、保守である共和党が「米国第一」のような国政の大きな方向性を決定づけ、リベラルである民主党が微修正する傾向があるが、その伝統にも合致する絶妙な組み合わせだと評価できる。

(注)自著『見えない「時代の危機」を読む(慶應義塾大学出版会(2020/5)』72ページより加工して転載。

以上

運用戦略部 チーフ・ストラテジスト 黒瀬浩一

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