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2020.11.18 エコノミスト・ストラテジスト・レポート ~鳥瞰の眼・虫瞰の眼~

アフターコロナの経済成長をけん引するCO2排出権ビジネス

<2021年1月発足予定の米国バイデン政権は地球温暖化防止を重視>

米国でバイデン政権が成立したら、CO2など温室効果ガスの排出権を売買する排出権ビジネスで巨額のマネーが動くことになる可能性が高い。バイデン政権は、発足する日にCO2など温室効果ガス排出量削減の国際協定である「パリ協定」に復帰し、「環境正義」という概念を樹立して、100日以内に世界を巻き込む「気候サミット」を開催し、主要国に排出量の削減を約束させる方針だ。約束が未達の場合には罰金を課すなど約束に拘束力を持たせる強力な仕組みが導入されるものと見込まれている。

これまでも1997年の京都議定書、2009年に発足したオバマ政権のグリーン・ニュー・ディールなど、類似のメカニズムは存在した。目的は、昔も今も全く同じだ。CO2など温室効果ガスの排出量を削減することで地球温暖化に歯止めをかけることだ。

しかし、これまでは新興国と先進国、先進国の中でも省エネ効率の高い国と低い国、そもそもCO2を排出する権利である排出権をどの国のどの企業に何を根拠にどう割り振るか、などの問題から、制度としてとりあえず発足はしても、頓挫したのが現実だった。

中には日本の電力会社のような例もある。京都議定書に基づいたCO2排出量削減を、排出権(枠)を海外から数百億円単位で購入することで達成しようとした。ところが、京都議定書から米国やカナダが一方的に離脱したことで、実態として「正直者が馬鹿を見る」世界になっていた。

しかし、バイデン政権が発足してパリ協定に復帰する可能性が高まったことを受け、今度こそ本当に温室効果ガスの排出量を厳格に規制する世界統一ルールを導入する機運が世界的に高まりつつある。

<地球温暖化防止に関する人々の意識は大きく変化>

米国で地球温暖化防止への理解が得られ始めた背景は、顕著に増加した自然災害だ。地球温暖化は陰謀論であり、そうした事実はないとする見方は古くからある。しかし、近年になって地球温暖化の影響で海面温度が上がり、水蒸気が大量に空に滞留することで、台風やハリケーンが巨大化し、水害や風害の規模が毎年過去最高を更新するようになった。被害の大きさは保険会社の支払保険金に顕著に表れるが、毎年兆円単位で巨額化しているのだ。欧米では強風で立木が揺れ、その摩擦で火が発生し山火事となることがままある。しかも、山火事は長ければ数か月にわたって燃え続け、昼夜を問わず空がオレンジ色に染まる光景は、神の怒りを思い起こさせるのに十分なのだ。米国には、頑なに地球温暖化は陰謀論だとする地質学者が、自宅近くの長期間続くオレンジ色の山火事を経験して、陰謀論者から地球温暖化防止論者に鞍変えした有名な話もある。

日本では2019年に、千葉県で最大風速60メートルの台風が襲来した。ゴルフ場の網を吊る鉄柱が倒れるほどの強風で、倒木により電線が切れて広範囲にわたる停電が発生した。日本の橋梁はこれほどの強風を前提にはしていない。場合によっては全国の橋梁をかけ替える必要が生じる可能性さえあるのだ。

<地球温暖化防止に向けた排出権ビジネス>

こうした現実を目の当たりにして人々の意識が変わり、今度こそ実効性のある地球温暖化対策を実現しようとする機運が高まっているタイミングで、米国バイデン政権が発足する。地球温暖化防止の手段は大きく分けて2つある。1つはCO2排出量の削減を目的とする産業政策だ。もう1つはCO2排出権の売買だ。既に多くの企業は、排出権を余分に買い入れることでCO2排出量をマイナスとするカーボン・ネガティブまで表明している。これらの手段を実現する段階で巨額のマネーが動く可能性が高い。

<CO2排出量削減に向けた産業政策>

各国政府は既に相当に野心的な計画を発表している。CO2排出量を実質ゼロとするカーボン・ニュートラル実現の時期をEUは2050年と表明し、世界で120ヶ国以上が賛同する意志を表明した。また、米国バイデン次期大統領は2050年、中国は2060年、菅総理も先の国会での所信表明で2050年とした。

そして、CO2排出量削減に向け、世界各国が補助金を中心とする積極的な産業政策を実施する機運が高まっている。EUは各国の国債ではなくEUによる欧州共通債を原資として、2021年以降に7,500億ユーロ(約92兆円)を地球温暖化対策につぎ込むことを決定した。米国次期バイデン政権は4年間で2兆ドル(約210兆円)の投資を選挙公約とした。出遅れた日本の「グリーン成長戦略」はこれからだ。

実はこれらの政策は大きな制度変更に相当する。元々は産業補助金は公正な企業間の競争を阻害するとしてWTOで厳しく制限されていた。しかし、コロナ禍で苦境に陥った航空会社の救済、ワクチン開発のための補助金など、緊急事態を大義名分に有名無実化した。この流れでCO2排出量削減のための補助金投入がWTOルールを軽視する形で進み始めたのだ。コロナ禍で積みあがった政府債務を返済するには、高い経済成長が不可欠であることも大きい。アフターコロナの経済成長の柱として、政府主導の産業政策で地球温暖化防止を実現する「グリーン・リカバリー」が世界的に起動し始めたのだ。尚、日本だけが国土強靭化を大義名分に、公共事業に過剰な予算をつぎ込むことがないかどうかには注意は必要だ。

<CO2排出権売却でテスラは巨額の利益>

既にEUや米国カリフォルニア州は、自動車会社にCO2排出量の上限を配分し、超える場合は罰金を課している。この罰金を回避する手段が、排出量が少ないため排出権が余る自動車会社からの買い入れだ。この仕組みにより、排出権を売却する企業は利益を得る一方、購入する企業は余計なコスト負担になる。2020年1月から9月までに電気自動車のテスラは11.8憶ドル(約1,250億円)もの巨額の排出権売却による利益を出した。こうした恩恵もあり左図のように株価も上がっている。自動車の年間生産台数がざっと100万台でしかないテスラの株式時価総額が約1,000万台のトヨタを抜いた背景には、この仕組みがある。

排出枠が鉄鋼会社、航空会社、電力会社などに世界中で広く課されると、CO2排出量の多い企業と少ない企業で収益力に大きな差が出る可能性が高い。図にある通り米国S&Pが策定する世界的な太陽光や風力を動力源とする再生可能エネルギーの企業の株価指数も、近年やはり大きく上昇している。

<ルールの変更と企業の栄枯盛衰>

ルールの変更はいつの世のどこの世界にもある。スポーツの世界でも、たとえば2006年の冬季五輪の少し前に、それまでは点数の高い最高難度とされたイナバウアーが、全く何の得点にもならないものへと変更された。オリンピックのルール変更であり、権威ある団体への陰謀論は控えるべきだろう。ただ結果として、イナバウアーが出来る選手の点数を引き下げ、出来ない選手に下駄を履かせる効果はある。スポーツと全く同様で、産業界のルールの変更は企業、更には国家の栄枯盛衰に結びつく。

1960-70年代には公害を防止するため自動車の排ガス規制が強化された。当時は厳しい規制を達成できない米国勢を尻目に、日本企業は排気ガスのクリーン化と燃費の向上など省エネに成功した。触媒を使うことで排気ガスのクリーン化に世界で初めて実現したホンダのSVCCエンジンは、日本の技術革新の輝かしい成果だ。

この時代を境に日本の自動車会社は世界に飛躍した。当然、大いに利益を出して株価も上昇した。

<CO2排出権の価格は既に高騰>

以上述べてきた先行きの見通しは、既に排出権の価格の推移に表れている。11月3日に実施された米国大統領選挙では、環境規制緩和を訴えるトランプ候補に対し、バイデン候補は規制強化を訴えた。既にEU、日本、中国がCO2排出量の削減を表明していたことから、米国が加われば世界で多数派を形成し、世界共通ルールを導入する思惑が高まったからだ。

もともとEUは「国境炭素税」を導入する方針を示していた。これは、EUが輸入する財について、そのEU域外での製造過程で出たCO2の排出量がEUの基準を満たしていない場合、余分に税をかける罰則だ。米国トランプ政権の反対で導入を見送られていたが、バイデン政権になれば、導入される可能性が高い。要するに、EUの環境基準を世界中に強制適用する仕掛けだ。

CO2排出権価格の変動は、売却する企業にとっては利益の増大、購入する企業にとっては減少に直結する。既に見たテスラのように株価にも多大な影響が出るのだ。

<ルール変更で恩恵を受ける企業>

企業がESG(環境、社会、企業統治)を重視する意義について、世界で統一した見立てがあるわけではない。総論としては企業がこうした取り組みに注力することは良いことだろう。しかし、正反対の見方もある。米国の年金運用業界では、投資家の金銭的な利益を犠牲にして、企業が環境保護や社会正義にコストをかける行為を禁止する規則が明示された。背景にあるのはトランプ政権の環境や社会正義を軽視する姿勢だと見られている。

しかし、バイデン政権の発足により、ことCO2排出量の削減による地球環境保護が企業収益と直結する仕組みが整備される可能性が高まっている。しかも、各国がコロナ禍からの景気回復に向け、巨額の補助金をつぎ込む産業政策の柱に据えようとしているのだ。欧米ではエネルギー分野の新興企業である「エネルギー・ベンチャー」が続々と生まれている。中には直接はエネルギーと関係がないような、電車やバスの連結を良くして人々の公共交通を使う移動から無駄を省くことで効率を高めるアルゴリズムの会社もある。

日本企業はこの分野では大きく出遅れた。しかし、逆に言うと改善の余地は大きい。しかも、元々省エネは日本企業の得意分野だった。日本の産業政策も高度成長の時代には極めて有効に機能した。

ファンドマネジャーの仕事は先行き有望な企業の発掘であり、こうした企業に資金を仕向けるのが金融市場の機能だ。結果としてグリーン投資が活発化してグリーン・リカバリーが実現し、地球環境保護が実現することを期待したい。

以上

運用戦略部 チーフ・ストラテジスト 黒瀬浩一

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