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2021.06.10 エコノミスト・ストラテジスト・レポート ~鳥瞰の眼・虫瞰の眼~

投資家なら知っておきたい米住宅市場に見る健全な市場の条件

米国の住宅市場で大きな変化が生じている。住宅価格が高騰したことを受け、需要が不況期であるかのように急激に減退しているのだ。この変化は、健全な市場調整の実例として投資家にとって示唆に富むと考えられる。

住宅価格高騰の原因は様々だ。供給面では、政策的に止められている立ち退きと競売が始まるまで供給の増加が期待できない、材木価格の高騰で価格を一戸当たり平均的に300万円も押し上げた、大工に多い移民がコロナ禍により帰国したことで大工不足に陥り新築住宅の供給が追い付かず在庫が払底した、などだ。需要面は、仮想通貨や日本製ウイスキーにまで及んだ投機資金による買い上げが住宅に向かった、都心の密を避けるため郊外の住宅ニーズが高まった、などだ。

いかなる理由があっても、ごく短期の思惑による価格変動を除けば、価格は長期的には本源的価値(fair value)に収れんする。フローの価格は限界生産力で決まるが、住宅や株式のようなストックの本源的価値は、家賃との対比、年収との対比、などのバリュエーションによる相対比較で計測が可能だ。本源的価値を発見する場こそが需給関係が健全な市場だ。その条件は極めてシンプルである。需要と供給の法則に従って価格と数量が同時に決定される。健全な需給関係が見られる典型例が閉店間際のスーパーだ。生鮮食品が赤札で投げ売りされている。健全な市場では、価格が下がれば需要は増え、価格が上がれば需要は減る。

しかし、もし健全ではない市場なら何が起こるか。その実例が2008年のリーマンショックの引き金となったサブプライム危機で、住宅価格が上がれば上がるほど投資熱は高まり、値上がりを住宅ローンの返済原資とする例が横行した。図は、健全な市場と不健全な市場での価格決定のメカニズムの違いを単純化したものだ。健全な市場では、価格が上がると需要は減退する。図表で言うと、A→B→C近傍へとシフトする。近傍とは、需給ギャップが生じたため、両曲線がシフトして今後の均衡を探る状態だ。一方、不健全な市場では、需要曲線が(1)から(2)にシフトすることで価格はA→Bで止まり、Bが新しい均衡点となる。これがサブプライム危機を引き起こした基本的なメカニズムである。

この2つの実例から、証券投資の教訓を引き出すことが出来る。証券市場では、往々にして不健全な市場でみられる現象が発生する。株価が上がれば上がるほど、買いの需要が減少せずに逆に提灯が付くことで増加して、もっと高値で買おうとするのだ。行動経済学では群集心理とも呼ばれる現象だ。

投資家は、証券価格が変動した場合、需要曲線と供給曲線がいかなる理由でどう動いたのかを見定めることが肝要だ。日々の行ったり来たりする変動は、ごく短期的な思惑だけで動く場合が多い。しかし、証券の本源的価値が変化したのを反映して、長期的に需要曲線と供給曲線が動くこともある。投資家にも様々なタイプがいる。ごく短期のトレーダーなら、思惑による短期的な変化は収益を出すチャンスだ。しかし、長期の投資家はそれは無視すべきだ。そして、証券の本源的価値に起因する需要曲線と供給曲線の変化だけに着目すべきだろう。

近年、証券税制の整備や金融商品販売業者に対する顧客本位の営業の要請などが進められたこともあり、投資家のすそ野が飛躍的に拡大した。市場経済の本質である価格変動に慣れ親しむのは大事なことだが、投資家は見たいものだけを見る選択的情報収集など心理的な罠に陥りやすい。投資教育の教材として、目の前にある健全な市場調整のメカニズムから学ぶことは、大いにあるのではないか。

以上

運用戦略部 チーフ・ストラテジスト 黒瀬浩一

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