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2021.08.26 エコノミスト・ストラテジスト・レポート ~鳥瞰の眼・虫瞰の眼~

新しい時代の新しい言葉④ 包摂的成長(inclusive growth)

昨今は社会の風潮としてSDGsが重視されています。SDGsは2015年の国連総会で採択された「持続可能な開発のための2030アジェンダ」と題する行動計画で、「誰一人取り残さない」を目的に17の目標から成っています。しかし一方、企業サイドからはSDGsのためのコスト増加に対する警戒感が強まっているのも事実です。

この相反する利害を一致させて包含するのが包摂的成長です。包摂的成長を実現した企業の実例は既に多くあります。アマゾンで検索すれば、スターバックス、ネスレ、ユニリーバ、P&G、リプトン、ナイキ、セールスフォース、ブルネロクチネリ等の有名になった事例を紹介する本が多数出てきます。惜しみなくノウハウが公開されているのです。日本では古くから後世に残したい良い企業という意味でレガシーカンパニーとしても知られています。最近では青野社長が働き方改革の啓蒙活動を熱心にしていることでも有名なサイボウズが広く知られるようになりました。

包摂的成長は、(1)包摂的制度に(2)ウェルビーイングの観点を取り入れた成長と考えてよいでしょう。

(1)の包摂的制度は、収奪的制度と対比される制度の区分です。2つの制度の直観的で対照的な分かりやすい歴史的な事例を、経済学者であるアセモグルとロビンソンは共著書『国家はなぜ衰退するのか』で紹介しています。北米にある共通の文化的背景を持つ地域がありました。しかし、後に国境線が引かれて、北部は米国に、南部はメキシコに帰属することとなりました。その後、米国に編入された地域は経済発展して先進国になりました。一方、メキシコに編入された地域は新興国のまま発展しませんでした。この差異を説明するのがアセモグルらの主張の眼目です。経済発展した米国の制度は包摂的で、その特徴は、公正な政治、開放的で公平で柔軟な経済制度、個人の意思としての内発的動機です。他方、経済発展しなかったメキシコの制度は収奪的で、その特徴は、利権政治、閉鎖的で不公平で硬直的な経済制度、個人の意思への専制政治的圧力です。一言でいうと、前者はホワイト、後者はブラックです。

(2)について、近年では資本を、自然資本、人的資本、人工資本の3つに分ける分類が支持を集めています。元々の流れは2007年にOECDが始めた「Beyond GDP」と題する経済成長と社会進歩を同時に計測するプロジェクトに始まります。具体的なGDPに代わる指標の青写真は、国連環境プログラムが「新国富報告書(Inclusive Wealth Report)2012」で示しました。ここでは、人工、人的、自然の3つの資本の増加分を合算する「包摂的成長」の観点から、GDPに代わり社会のウェルビーイングを計測する指標として、新国富(Inclusive Wealth)の公表が定期的に始められました。自然資本、人的資本、人工資本の3つの資本は、SDGsの17のゴールにそれぞれ紐づけられています。たとえば、ゴール13「気候変動に具体的な対応を」は自然資本に、ゴール5「ジェンダー平等を実現しよう」は人的資本に、ゴール11「住み続けられるまちづくりを」は人工資本に対応しています。並行して国連は2012年から個人の幸福度を計測する世界幸福度調査(World Happiness Report)でランキングの公表を始めました。

企業財務でもこうした流れを反映して変化が起きています。企業財務にはルールとして日本なら円で表示する「貨幣的評価の公準」がありますが、非財務情報として現存する内部統制報告書と類似の位置づけで、既に公表が始まっています。ただ、現時点では国内はおろか世界にも共通の基準がないため、基準作りが急がれています。

今はまだコロナ禍が目の前の脅威として残っています。しかし、各国政府はコロナ後の経済成長の柱に脱炭素などグリーン化を中心にSDGsを明示的に据えており、100兆円単位の予算をつぎ込む意思を示しています。株式市場でもSDGsへの取り組みが高く評価されるようになっています。さらに、SDGsへの取り組みを格付けや点数で評価し、一定以下であれば低格付けと同様に「投資不適格」の烙印を押される可能性があるのです。成長を実現するなら包摂的でなければならない時代が到来しつつあるのです。(脱稿8月20日)

以上

運用戦略部 チーフ・ストラテジスト 黒瀬浩一

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