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2021.11.05 エコノミスト・ストラテジスト・レポート ~鳥瞰の眼・虫瞰の眼~

岸田政権は、新しい資本主義そのものではなく、新しい資本主義の時代の国益を成長戦略として追求すべきである

岸田総理肝いりの「新しい資本主義実現会議」の初会合が10月26日に開催された。そして、11月上旬に緊急提言案を出す方針が示された。新しい資本主義は、株主資本主義から、SDGsを包含するステークホルダー資本主義への過渡期にふさわしい壮大なテーマだ。ただ、世界の潮流を見渡せば、既に答えは出ている。また、それをどう実現するかで既に激しい国益をかけた駆け引きが行われている。この文脈においてスピード感は大事である。

初会合の後に岸田総理は、生産性を向上させ、賃金の形で分配することで国民の所得水準を伸ばし次の成長につなげる「成長と分配の好循環が重要」との認識を示した。問題は、この理想をどう実現するかにある。というのも、日本政府はこの理想の突破口を企業のガバナンス改革にしようとした。そして、実効性を持たせるため、KPIとして2015年に上場企業にROE8%基準を実体として設定した。更にそれを二重に担保するために、法務省の見解は「株主の利益を代弁する立場」の社外取締役を質量の両面で充実させる制度を創設した。結果的にその後の上場企業のROEは顕著に上昇した。

だが問題は、そのやり方に人件費や人材投資の削減、更には下請けいじめなど、株主資本主義の時代の遺物が散見されたことだ。この世界から周回遅れの「ガバナンス改革」について、岸田総理が表現をぼかして「新自由主義」という言葉で批判したのは正しいと考えられる。

世界には2つの潮流が生じている。1つは、無形資産の重要性だ。経済成長の根源には生産性がある。それを生むのはイノベーションだ。イノベーションの実体は知的財産権など無形資産である。これを創造するのは人材だ。人材を人財と言い換え、人財投資こそが成長の源泉だという認識は、先進国の共通認識となっている。もう1つはサステナビリティーの重視だ。これは脱炭素だけでなく、他に下請けいじめと正反対の取引先との共存共栄、世代会計の観点で公平感が重視される国家財政、などもっと広範囲の文字通りのSDGs(持続可能な開発目標)である。

近年の日本のガバナンス改革が周回遅れで世界の潮流と正反対を向いたという反省は政府内にもあり、既に政策は修正の段階に入っている。ROE8%の生みの親といって良い伊藤邦雄一橋大学名誉教授は、2020年9月に経産省から「人材版伊藤レポート」を公表して人材投資と人事戦略の重要性を提唱する方向に舵を切った。ここではまだ「人材」にとどまっている。2021年6月に東証はガバナンスコードを改定した。株主以外のステークホルダー、SDGs、ESG、サステナビリティーなど言葉を使って、株主資本主義を見直すべきであるとの認識がにじみ出る内容となっている。また、社外取締役の役割について、法務省の見解である「株主の利益を代弁する立場」に拘泥される必要はないかと受け止められる記述がある。

そして現に、SDGsの概念を活かす形で成長と分配の両立に加え、サステナビリティーの面でも成功する企業が出始めている。こうした企業の例は既に広く人口に膾炙しており、当事者がセミナーやHPなどで詳細な情報を公開している。

但し、こと脱炭素に関しては、綺麗ごとは表面だけだ。一皮むけば、EUのタクソノミーに代表されるように、自国に有利なルールを形成するため各国は相当な力を入れている。英国は会計制度が自国に有利になるようロビー活動をする団体のトップにチャールズ皇太子を据えた。また、これがトヨタ潰しとも言われるのにはもっともな理由がある。EUは、EVがPHV(Plug-in Hybrid Vehicle)よりライフサイクルでのCO2排出量で有利になるよう、EVの耐用年数を10年から20年にしようと画策している。充電と放電を繰り返すと劣化の早いスマホのリチウムイオン電池と全く同じ原理のEVの耐用年数が20年というのは、どう考えても現実離れしている。PHVが脱炭素の面でEVより有利なのなら、潰すのではなく、見習うのが本来の筋だ。

だが、達観すれば国際社会での国益の追求とはそういうものだ。その意味で特に重要なのが経済安全保障である。サステナビリティーに関するルール形成を自国に有利にすることが日本の国益であり、経済安全保障である。更に、それが成長戦略として、成長と分配の好循環の柱になるほど重要であることを、強調したい。(脱稿10月27日)

以上

運用戦略部 チーフ・ストラテジスト 黒瀬浩一

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