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ESGコラム

「近江商人」と「ESG」

楽しく学ぶ 2024年4月12日

私の生まれ故郷は、滋賀県日野町という人口2万人ほどの小さな町です。琵琶湖の東側に位置するこの辺りは、いわゆる「近江商人」の発祥地として知られています。

「近江商人」とは、江戸時代から明治時代にかけて、近江国(今の滋賀県)に本宅を置き、他国へ行商に出たり出店を設けて商いをしていた商人のことを言いますが、彼らが何より大切にしていたのは、得意先となるお客さまからの「信用」でした。

「商いというものは、売り手・買い手が共に満足し、その取引によって得られた利益によって社会全体が幸せになるものでなければならない」という、いわば共存共栄の精神は、近江商人の経営理念として、今では「三方よし」(売り手によし、買い手によし、世間によし)と称されています。

近江八幡

社会奉仕に基づいた商いの理念

近江商人

「近江商人」の中でもとりわけ「日野商人」は、「千両店(せんりょうだな)」と言って千両貯まれば新しい店を出すという小型店舗経営を主流とし、多くの店を大都市はもとより関東を中心とした地方都市に出していたことや、醸造業を営むものが多かったこと、また「万病感応丸(かんのうがん)」と呼ばれる漢方薬の製造販売を行うなど、独自の商いを行っていましたが、今で言う社会奉仕事業に力を入れていたこともその大きな特徴の一つでした。当時彼らの多くは「心学」という学問を修めていましたが、そもそも「心学」とは心の在り方を研究し、社会奉仕を最大の徳とする学問です。「心学」の考えに基づいてそれぞれの家訓や商いの経営理念を築いた「日野商人」は、街道に常夜灯を寄進したり、道や橋の補修・開発にも資金を提供しました。商売ばかりではなく、多くの社会事業を行った「日野商人」の心意気は、同郷で生まれ育った私にとっての誇りでもあります。

財力以外も評価された「近江商人」長者番付

さて今から180年ほど前に、この「近江商人」の長者番付が発行されているのですが、ここには彼らの財力や老舗かどうかなどが興味深く順位付けされています。

番付に示された名前の上には9種類のマークが付いており、最高位は打ち出の小づちの絵に「宝」の字が印字されているのですが、約220人中の名だたる豪商のうち最高位はわずか6人だけにとどまります。実はその1人に、日野出身の正野玄三という商人の名前があります。

打ち出の小槌

最高位が付くのは、長年商売を続けていて、10万両以上を持っているような大富豪が多かったのですが、正野氏はこの時わずか3,000両ほどの財力しか持っていなかったそうです。ただ豊富な医学知識のあった正野氏は、薬を調合し、製薬卸業も手掛け、北関東にいる日野商人を通じて販売し、その薬によって多くの人の命を救ったこともあり、正野氏抜きに日野商人を語ることはできないと、別格の扱いだったと言われています。

薬1
薬2

社会貢献度と事業の持続性を重視

一方で同じ日野出身の豪商、中井源左衛門氏は当時20万両近くを保有していたものの、順位は最高位から1つ下のランクでした。このことからも、正野氏がいかに尊敬されていたかが分かります。(ちなみに私の小学校の社会科の先生は、この正野氏のご子孫でした…。)

なお最低位は「宝」の1文字だけですが、どれだけ多くの財を持っていたとしても、一代限りの人は最低位にランクされていたようです。一代で財をなした「宝」マークの説明には、こう記されています。『此印ハ大金をつかひ 一代栄花にて楽ミきたる印』

つまり、近江商人はお金があればそれだけで評価されていたわけではなく、むしろ一代だけの成り金は『お金を儲けて楽しんでいるだけでしょう』と彼らの世界では認められず、社会貢献度や事業継続性などが大きく重視されていたことがこの番付で分かるわけです。

このように、売り手と買い手の売買当事者のみならず、「世間」を見たことに当時の近江商人の先進性があったと言えるでしょう。

三方よしはESGに通ず

これらのことをグローバル化が進んだ現代風に解釈すると、「世間」は「社会」に置き換えられます。企業は自分だけ利益を上げていれば良いのではなく、従業員(売り手)や取引先・お客さま(買い手)などに加え、地域社会、もっといえば地球全体の環境への貢献を考えなければならないということになり、これは今のESGの考えに通じるものであると私は思います。

近江八幡堀

執筆者プロフィール

南川 久

りそなアセットマネジメント
未来資産形成ラボ 所長:南川 久

国内大手証券会社を経て、1998年大和銀行(現りそな銀行)入社。同年12月の投信窓販開始以来、投信の新商品組成や推進企画等、りそなグループの投信ビジネス戦略の中枢を担う。

2016年4月りそなアセットマネジメント取締役営業推進部長、2021年4月常務執行役員、2021年9月より現職を務める。

資産形成についての様々な情報発信や金融リテラシー向上のための各種教育活動などを通じて、資産形成がごく当たり前に実践される未来を目指し活動を続けている。

趣味は高校野球観戦と名城巡り。座右の銘は「雲外蒼天」。

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