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未来資産形成ラボ

未来資産形成ラボの創設にあたって ②投資アドバイス研究について

りそなアセットマネジメント

未来資産形成ラボ前所長 山口 佳子

 前回のコラムでは、当ラボの具体的な活動内容の1つとして掲げている「『金融UX』の高度化に関する研究」についてご説明させていただきました。

 今回は、2つめの活動内容として掲げている「投資アドバイスに関する研究」について述べさせていただきたいと思います。

「投資アドバイス」とは、そもそも何をすることなのか?

 金融庁から「顧客本位の業務運営に関する原則」が発表されて以来、多くの金融機関で、金融商品の提案のあり方を「セールス」から「アドバイス」に転換させようという取り組みが行われてきました。

 そもそも、「投資アドバイス」とは一体何なのでしょうか。実は非常に難しいテーマなのですが、あまり突き詰めて考えてこられなかったテーマかもしれません。「お客さまに最適な提案」や「ライフプランに応じた提案」などの言葉で表現されることは多いものの、では「何を持って最適とされるのか?」「ライフプランをどう判断し、そこからどのような提案が導き出せるのか?」について、体系立てられた考え方がまだ日本には浸透していないように思います。実際には、お客さまに接している現場の担当者のノウハウに委ねられている部分が大きいのではないでしょうか。

 また、「投資アドバイスとは相場を語ることである」という認識が根強いがために、相場主導の短期売買のアドバイスや、時代の流行に合わせたテーマ商品の提案など、いわゆるこれまでの「セールス」の手法から抜け出せていない金融機関も少なくないのではと思います。「これから上がりそうな商品をお勧めする」という短期的な視点でのアドバイスが中心である場合には、その商品が値下がりしたときに「お客さまに損をさせてしまった」という罪悪感に繋がり、資産運用に対し担当者自身が抵抗感を持ってしまうケースも少なくありません。

 では、「アドバイスとは何か」「ファイナンシャル・アドバイザーの役割とは何か」と考えたときに、それが職業として存在している以上、お客さまにとってそのアドバイスが付加価値を与えられるものであり、また無数に存在する提案の選択肢の中で、その選択肢がなぜそのお客さまにとって最適と考えられるのかを説明できる責任のことであると、私は考えています。(間違っても、タイミングを的確にアドバイスすることによりお客さまを儲けさせるという「結果責任」ではないと考えています。)そして、それによりお客さまが提案に対し納得して資産運用を始め、色々な局面を乗り越えて資産運用を継続いただき、成功体験をもたらすことができるものであり、投資アドバイスは健全な資産形成にとって欠かせないものであると考えています。

健全な資産形成を促す「投資アドバイス」に必要なもの

 では、「なぜその提案が最適と考えたか」を明確に説明できるような投資アドバイスを行うにあたり、必須となる資産運用の知識の提供がこれまで足りてきたかといえば、残念ながらそうではないと思います。これまでは、やはり金融商品の提案は「セールス」という側面が大きかったため、研修では個別商品のセールス話法や、短期的なマーケットの見かたなどを習得するケースが多く、資産運用の全体像を把握するための体系立てられた知識を学ぶ機会は少なかったように思います。これは、前回のコラムでもお伝えした通り、「そんなことを言っても伝わらない」「売れなければ意味がない」と考え、正しい知識を伝えることを怠ってきた資産運用会社の責任が大きいと私は考えています。

 実際、過去私が銀行の営業店で勤務していた際、新商品の取り扱い時などに運用会社の担当者が勉強会を開催してくれるのですが、内容はやはりその商品の魅力に関するセールス話法や、これから値上がりが期待できるなどの話が中心であり、「その商品特有のリスクとは何か」「なぜ他の商品ではなく、この商品が必要なのか」などについて説明が行われたことはほとんどなかったように思います。(さらに言えば、「この商品は○○の値動きの影響は受けない」など、明らかに誤った断定的な情報を伝えているケースもあり、「お客さまに誤った情報を伝えたら我々は下手をすれば訴えられるのに、なぜそれを教えている彼らは咎められないのだろうか」と、純粋な疑問を持っていたものです。今となっては、そのような積み重ねが、金融機関の担当者やお客さまの資産運用に対する不信感を助長させていったのではないかと思います。)

 このため、当ラボでは、投資アドバイスに関する研究を進め、資産運用に関する知識や提案手法、コーチング手法などの体系立てられた研修プログラムを開発し、「セールス」から「アドバイス」への真の転換を後押ししたいと考えています。

運用会社が取り組むべき広義のFDとしての「投資アドバイス」

 前回のコラム同様、投資アドバイスについても、運用会社ではなく販売会社が果たすべきFD(フィデューシャリー・デューティー)なのでは、というご指摘があるかもしれません。

 運用会社は、ポートフォリオ・マネジメントや、銘柄選定による超過収益の獲得、また運用コストを極限まで切り下げることで、ファンド自体のリターンを高めることは可能です。しかし、最終受益者(ファンドを持っているお客さま)が享受するリターンは、ファンドのパフォーマンスのみに依存しているのではなく、投資行動およびそれに影響をもたらすファイナンシャル・アドバイザーから受けるアドバイスに大きく依存しています。例えば、相場下落時に底値でパニック的に売却してしまうなどの行動があった場合、保有ファンド自体が良好な超過収益を上げていたとしても、その行動によってリターン自体が簡単に吹き飛んでしまうということになります。

 海外の資産運用業界では、既にこのような「投資アドバイス」や「投資行動のコーチング」等に関する研究が数多く行われており、ファイナンシャル・アドバイザーは、それらの情報を利用してお客さまに対してアドバイスを行っていることが一般的です。日本においても、資産運用会社がお客さまのリターン最大化のために取り組むべき課題は、もはやアルファやベータの追求やコストの切り下げ競争にとどまらず、投資家の「行動」や全体資産を俯瞰したファイナンシャル・アドバイザーからの「アドバイス」に研究の視野を広げ、お客さまの金融UX全体を高度化させていくことに取り組むべきであると考えています。

 現在、日本では、投資信託の購入ルートとして、金融機関の担当者を通じて購入するケースが最も多くなっています。このルートを通じてお客さまに伝えられる情報は、非常に大きな影響力を持っています。このため、投資アドバイスの研究を深め、広めていくことで、金融機関の担当者の方に正しい知識を身に付けていただき、投資アドバイスがお客さまの人生に役立つと自信を持って仕事を行っていただくことが、ひいては投資家の皆さまの健全な資産形成につながる近道となると考えています。

 今後は、当ラボのコラムの中でも、海外での投資アドバイスに関する研究事例などをご紹介していきたいと思います。