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未来資産形成ラボの創設にあたって 金融UXの高度化について

りそなアセットマネジメント

未来資産形成ラボ前所長 山口 佳子

 2021年1月12日、りそなアセットマネジメントに未来資産形成ラボが創設されました。
 当ラボでは、その具体的な活動内容の1つとして、「『金融UX*』の高度化に関する研究」を掲げております。聞き馴染みの無い言葉かと思いますので、本稿ではその考え方および背景について述べさせていただきます。

  • *UX:製品・サービスを通じて得られる体験

資産運用会社が「金融UX」に取り組む必要性

 まず、当ラボでの活動の前提として、当社では「フィデューシャリー・デューティー(FD)に関するアクションプラン」の中で掲げている通り、FDとは「努力すること」ではなく「当然果たすべき責務」であると考えています。お客さまの資産をお預かりしている運用会社として、各人が高い専門性と倫理観を持ち、お客さまに対しベストな運用を行うことは当然であり、常に専門性を磨き新しい理論を取り入れながら運用を高度化させていくことは、資産運用に携わるすべての社員の責務として、日々当然果たされているべきものであります。

 一方で、資産運用業界の中だけで話をしていても、世間一般には資産形成が広まらないということは、過去から現在までの状況を見れば明らかです。

 このため、当ラボでは、資産運用に関する高度専門性の追求は大前提としつつも、そこから一歩踏み出し、お客さまの体験にフォーカスをしたいと思っています。お客さまの資産運用を始めるまでの導線、また始めてからの体験などをすべて含めて「金融UX」ととらえ、これらの改善に資する研究を行ってまいります。

 資産運用会社が果たすべきFDとは運用の高度化であり、顧客体験は販売会社が担うFDなのでは、というご意見があるかもしれません。もし前者すら果たせていないとすれば、まずは運用会社として当然果たすべき責務に注力せよ、というのも当然のご指摘かと思います。
 ただ一方で、高い技術でより高いリターンを生み出していったとしても、そのリターンを享受しているお客さまがいなければ、それは世の中に価値を提供していないのと同義です。このため、そもそも資産運用を始めるまでの導線、ファンドの提供価値をご理解いただくための商品説明、運用期間中にリターンを損なわないためのアドバイス等、資産運用に関するすべての顧客体験に対し、資産運用のプロとして研究を深め、お客さまが実際に享受するリターンを最大化するということは、お客さまの資産を預かる運用会社が果たすべき広義のFDであると考えています。

「分かりにくくて当然」とされてきた多くの慣習

 こと金融業界では、他の業界では当たり前に行われているような「UX」の追求、つまりいかにお客様に心地よい体験をしていただくかということに、焦点が当てられてこなかったように思います。

 私は、過去実際に銀行の営業店で投資信託などの金融商品を取り扱っていましたが、その時からずっと感じていたことがあります。
 「これは一体お客さまにとって何の価値があるんだろう?」
 「これを説明して、お客様に何を理解しろというんだろう?」
というような、「分かりにくくて当然」とされてきた慣習が非常に多く存在しているのです。

例えば、リスクの説明です。
どの商品にも、
 「価格変動リスクとは・・・」
 「為替変動リスクとは・・・」
 「信用リスクとは・・・」
といった通り一遍の説明が羅列されており、ほとんど単なる記号と化しています。
一体、この説明で商品固有のリスクがどうやってお客さまに伝わるというのでしょうか。

また、分散効果を説明する際に、こういった言い回しをよく目にします。
 「卵を一つのカゴに盛るな、と言われているんですよ。」
 「分散投資によって一つの資産で持つよりも値動きを安定させることができます。」
これらは、ほとんど意味が無いか、もしくは実は間違っている表現であるにも関わらず、過去から見直されることなく、今なお呪文のように使い続けられています。
 聞いたところでよく分からない、実は間違っている、論理が繋がっていない、そういった説明を続けているままでは、お客さまに資産形成が広まるはずはありません。

「分かりにくさ」を生み出してきた要因とは

 そして、これらを生み出してきた責任の一端は、資産運用のプロフェッショナルである資産運用会社にあると思います。
 「そんなことを言っても誰にも理解されない」
 「伝わらないのは現場やお客さまのリテラシーが低いから」
そう切り捨て、理解してもらうための努力、どうやったら伝わるかを考え抜く努力を、怠ってきてしまったのではないでしょうか。

 そしてその理由は、やはり運用会社のインセンティブが、「いかにこのファンドを通じてお客さまに価値を届けるか、その価値を販売会社と共有しお客さまに伝えていくか」ではなく、「いかにこのファンドを販売会社に採用してもらい、販売してもらうか」に方向づけられていたからからに他ならないと考えます。

 資産運用に関して最もプロフェッショナルであるはずの運用会社が、その専門性を発揮することなく、販売会社の言われた通りに売れそうな商品を作り、世の中の誤った認識を正さず、投資哲学を曲げお客さまのリターンを損なうということを行ってしまった場合、そのような会社に自分の大切な資産を預けたくない、資産運用はやりたくない、とお客さまが感じるのは当然の結果ではないでしょうか。

「金融UX」高度化に関する当ラボのこれからの取組み

 当社は、2015年に設立された比較的新しい運用会社であり、過去の負の遺産は有しておりません。このため、今までの慣習に囚われず、ゼロから始めることができます。「貯蓄から投資へ」とのスローガンが掲げられてから約20年と、決して短くはない期間が過ぎました。これまでの反省を活かし、健全な資産形成を世の中に広めるために、資産運用に携わるプロとして、私たちは新たな気持ちでやり直したいと思っています。

 これまでの研修やセミナーでも、過去の慣習に囚われず、従来は語られてこなかったような資産運用の理論をなるべくかみ砕いてお伝えしてきましたが、
 「やっと資産運用の意義や、長期分散と言われている意味が分かった。」
 「自分自身の認識が誤っていることに気づいた。」
 「資産形成をしたいという意欲が湧いた。もっと早く知っていればよかった」
といった声を多く頂きました。
 これがもっともっと広まれば、本当に世の中が変わり、豊かな社会が訪れるのではないかと、そんな思いで今回「未来資産形成ラボ」を設立いたしました。当ラボでは、この実感をさらに深めていくために、実際のお客さまや販売会社のアンケート調査などを通じた実証研究を取り入れ、人間の行動や感情に寄り添った今までにないアプローチを行っていきたいと考えています。

 そして、普通に生活している誰もが当たり前に資産形成を行っていける環境を作り、金融資産の底上げを通じて日本の社会をより豊かにしていけるよう、邁進してまいります。

 次回は、2点目の活動内容「投資アドバイスに関する研究」について述べさせていただきたいと思います。