スマホ用ページはこちら

経営者(第3回)

ニホンノミライが成長を期待して投資している『社会構造の変化』は需要サイドにフォーカスしたものですが、もう一つ私たちが重要視しているものが『経営者』です。これはいわば供給サイドの視点なのですが、社会構造の変化を伴った市場拡大がいくら魅力的であったとしても、それをしっかり認識し、アプローチをして成長を取り込める企業でなければ元も子もありません。しかも、長い企業経営の中には想定外のことが次々と襲い掛かります。少し思い返しただけでも、リーマンショック、東日本大震災、Brexitにトランプショック等々。こうして見てみると、毎年のように何十年に一度、史上初ということが起こっています。つまり、想定外は必ず起こるものだと思った方がよさそうなくらいです。これからもきっと想像もしていなかったようなことが起こるに違いありません。そうした時、私たちファンドマネージャーの判断というのは、ニュースの報道や証券会社のアナリストレポート等の2次情報を中心に考えなければならないのでどうしても後追いになりがちです。その点、今まさに現場に直面している企業は多くの情報を持っています。急に受注がキャンセルになった、工場が被災した、原材料の仕入れ価格が高騰した等々。しかも、想定外のショックであればあるほどその変化は急激で甚大なものとなるでしょう。その時、手に入る情報をいかにかき集めて、現状分析し、未来を予測し、手の内にある手札を並べて、最善の打ち手を打つ、ということがとても重要で、それができる権利があるのは企業の経営者だけです。残念ながらファンドマネージャーではないのです。しかし、ピンチはチャンス、世の中が大きく動くとき、重大な事業リスクが起きている時は同時に大きなビッグゲインの好機でもあるのです。実際に、リーマンショックの時に、迅速に大胆な打ち手を採った企業の中にはその後の景気回復期に2倍も3倍も大きくなって業績を伸ばした企業がいくつも存在しました。そういった意味で行くと、私たちファンドマネージャーは企業に投資をするというよりも、これはという優れた経営者にお客様の大切な資金をお預けするという感覚が正しいと思っています。もちろん、組織や仕組みをしっかり整備して、チェック体制を構築して、事業リスクに備えるという考え方も企業経営としてはとても重要な考えではありますが、私達が投資している中小型銘柄は比較的規模も歴史も体制もまだ大企業のようには整っていない会社がほとんどです。そうしたフェーズであるからこそ、そのトップである企業経営者の資質は重要だと考えます。

では、どのような経営者が望ましいのかというと、その経営者の心の一番核心の部分にある想いや欲求が大切だと思っています。どうしてその事業を始めようと思ったのか、この事業を通じて世の中をどう変えたいのか、仕事以外でもどのようなときに喜びを感じるのか、利他的なマインドを持ち合わせているのか。それこそ過去の経験や、趣味、嗜好、いろいろな話の中からその方の人となりをお伺いさせていただいています。以前、お付き合いのあった某会社(以下A社)の社長はもともと某上場企業のサラリーマンをされていたのですが、定年退職の時期が近付いてきたときに人生を振り返って、いろいろ感じるところがあったそうです。ご自身はまだまだ気力体力充実していて何でもできるのに、制度に倣って時が来たら退職して、年金をもらって、悠々自適な老後を送る、ということがどうも腑に落ちなかったといいます。そこで、当時設立間もなかったA社の社長としてもう一花も二花も咲かせよう、元気があれば何でもできる!とばかりに定年制を廃止して、従業員には元気で能力があれば一生働いてほしいと言っています。元気に働いて、お金を稼いで、毎日が充実していればきっと生き生きとした人生が送れるのではないか、そうしたら家族だって明るくなるし、うれしいし。そして、A社にはその息子さんも、お孫さんも勤めてもらって一家3代で会社を盛り立ててほしい。そうしたら会社はもっと成長するし、家族はもちろん、きっと町が元気になる、とおっしゃっていました。

日本は今、少子高齢化という未曽有の危機を迎えつつあります。年金問題、医療費高騰、労働力不足、地方過疎化、技術継承問題。A社はそんな日本にとっての一つの指針となる会社だと思います。こうした企業が成長して、それに続く企業がどんどん増えてくれれば日本も少しずつ変わっていくと期待したいものです。こんな夢が見られるのも振り返ってみれば、社長の一人の想いからスタートしたのです。私はこの話を聞いて、全てが腑に落ちましたし、きっとこの会社は成長すると確信しました。そして、この社長になら大切なお客様の資金を安心して預けることができる、そして日本を変えてほしいと心から願いました。

日本には素晴らしい社長がたくさんいらっしゃいます。大企業ばかりでなく中小企業にも、様々な産業にも日本の地方の隅々にまで。皆さんそれぞれ生まれも育ちも違いますし、考え方も様々ですが、ひとたびその魂に触れると一遍の長編小説が書けそうなくらい魅力的な方ばかりです。そんな社長にお会いする度に、私はうれしくなって誰かにしゃべりたくなりますし、応援したくなります。そして、こんな素敵な社長の会社に皆さんのお金は投資しているんだよと、お客様に知ってもらいたくなります。そんな橋渡しができたらファンドマネージャーとして大変うれしく思いますし、皆さんに知って、応援していただけたら社長さんたちもきっと喜んでくれると思います。

りそなアセットマネジメント株式会社
株式運用部
チーフ・ファンドマネージャー
井浦 広樹(いうら ひろき)