1999年より20年以上にわたり、エコノミスト/ストラテジストとして資産運用業務に一貫して従事。「りそなの顔」としてBSテレビ東京「日経+9」、日経CNBC「昼エクスプレス」等のレギュラーコメンテーターを務めるなど、情報メディアへの執筆・出演も多数。2023年からNewsPicksプロピッカーに就任。資産形成Webメディア「finasee(フィナシー)」にコラムを連載中。
(著書)
「時代の「見えない危機」を読む ――迷走する市場の着地点はどこか」(2020年、慶應義塾大学出版会)
やさしく解説 “りそにゃ”のお金のギモン 人生100年時代の生活とお金
年末に日銀が実質的な利上げを決定したという報道を見ましたが、これによってどんな影響が出るのでしょうか。
一言で言うと、インフレの鎮静化、円高、景気押し下げの要因になる。
景気押し下げの要因になるのは困ります…。
だからこそ黒田日銀総裁は記者会見で利上げではなく、金融緩和を維持すると明言したんだ。
利上げだとか、そうじゃないとか、なんだか混乱してきました。黒瀬さん、本当は何が起きたのかわかりやすく教えてください。
2013年以降の日本銀行は、第2次安倍政権で始まったアベノミクス3本の矢である大胆な金融政策、機動的な財政政策、民間投資を喚起する成長戦略の一角を担ってきました。大胆な金融政策はその後も拡充され金融政策の伝統を破る新しい政策を実施したことから異次元の金融緩和と呼ばれました。その手段の一つが10年国債金利の目標をゼロとし、上下に変動の許容幅を設けるイールドカーブコントロール、通称YCC政策です。今回の実質的な利上げは、この変動幅を±0.25%から0.5%に拡大したことでした。これにより10年国債金利は0.25%から0.5%弱に上昇しました。企業の長期借入金利や新規の固定型住宅ローン金利は、連動して上昇する見込みです。
13年に異次元の金融緩和が導入されて以降、金利は大幅に低下しました。そのメリットは大きく、企業の設備投資や個人の住宅購入を押し上げました。しかし、異次元の金融緩和が22年以降の急激なインフレや円安の主因になっているのも事実です。その意味では副作用も目立ち始めていました。昨年の国会中継では、インフレの原因が日銀の異次元の金融緩和だとして、修正を迫る野党議員の姿が目立ちました。異次元の金融緩和の副作用が政治問題化しつつあったのです。
岸田政権の支持率は相次ぐ閣僚の辞任から低空飛行を続けています。また、インフレも支持率低下の一因になっています。異次元の金融緩和を進めた黒田総裁は今年4月に退任します。そこで退任する前に、金融政策の方向転換の道筋をつけることで、将来の金融政策が政治問題に巻き込まれないための予防線を張った、とみられています。
年末の唐突なタイミングでの実質的な利上げを受けて、一気に円高、株安が進みました。少し時間をおいてインフレ鎮静化の要因にもなると思います。すぐにさらなる日銀の実質的な利上げを見込む必要はないものの、もう少し長い目線では注意が必要な情勢だと思います。
(埼玉新聞 2023年1月30日掲載)
1999年より20年以上にわたり、エコノミスト/ストラテジストとして資産運用業務に一貫して従事。「りそなの顔」としてBSテレビ東京「日経+9」、日経CNBC「昼エクスプレス」等のレギュラーコメンテーターを務めるなど、情報メディアへの執筆・出演も多数。2023年からNewsPicksプロピッカーに就任。資産形成Webメディア「finasee(フィナシー)」にコラムを連載中。
(著書)
「時代の「見えない危機」を読む ――迷走する市場の着地点はどこか」(2020年、慶應義塾大学出版会)
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