スマホ用ページはこちら

やさしく解説 “りそにゃ”のお金のギモン 人生100年時代の生活とお金

第31回 株価と半導体と地政学

最近、日本の株価が好調というニュースをよく見ます。

日経平均株価が33年ぶりに高値を更新していたね。

どんな業種の株価が上がっているのですか?

ほとんどの業種で上がっているけど、特に目立つのは半導体関連だね。

そもそも半導体って何ですか。

電気をよく通す金属などの導体と電気をほとんど通さないゴムなどの絶縁体の中間の性質を持つシリコンなどの物質だよ。ほぼ全ての産業に関連することから「産業のコメ」と呼ばれているんだ。

日本の株価と半導体、一体どんな関係があるのでしょうか。

半導体はほぼ全ての電気を使う機械で制御を目的に使われています。例えば、冷蔵庫、エアコン、スマホ、テレビ、自動車などです。他にも最先端の宇宙衛星、精密誘導ロケット、ドローン、等でも使われています。これが「産業のコメ」と呼ばれるゆえんです。

半導体は、米中対立の核心です。というのも、最先端の半導体を生産できるのは台湾のTSMCという世界最大の半導体製造企業だけなのです。もし台湾が中国に接収されたら、最先端の半導体は全て中国のものとなり、日本や米国に入ってこなくなる可能性があるのです。今、この苦しみを味わっているがロシアです。TSMCが輸出を止めたことで、ロシアに最先端の半導体が入ってこなくなりました。戦争中のロシアで兵器の生産が滞っているのはこのためです。

米国は中国に対し米国由来の技術を使う半導体製造装置の輸出を原則として禁止しました。これも半導体が米中対立の核心で20世紀の石油に相当する戦略物資だからです。20世紀は戦争の世紀とも呼ばれますが、ほとんどの戦争は石油を巡る争いから起こりました。日本はABCD包囲網で石油を絶たれ対米開戦の真珠湾攻撃に追い込まれました。20世紀の石油に相当するのが現代は半導体なのです。

国際金融界では資本(お金)は、危険を避け安全で収益性の高い国に向かいます。この考え方から、2023年の春先以降、世界中の多くの投資家が中国から資金を引き揚げ安全な日本にシフトしました。

地政学とは、地理学と政治学をミックスした実践知の体系です。元々は、なぜ人口が少なく文字通り孤島だった英国が近世以降に世界に君臨する大英帝国たり得たのか、の研究から始まりました。この地政学の観点で、日本は絶好の好位置につけているのです。TSMCが1兆円を投資する熊本第一工場や国策の半導体製造企業ラピダスが北海道に新設されたのは、こうした背景があります。

半導体を巡る地政学が日本株を押し上げる構造は、長期的に続く可能性は高いと思います。

(埼玉新聞 2023年7月3日掲載)

チーフ・エコノミスト/チーフ・ストラテジスト 
黒瀬 浩一

黒瀬浩一

1999年より20年以上にわたり、エコノミスト/ストラテジストとして資産運用業務に一貫して従事。「りそなの顔」としてBSテレビ東京「日経+9」、日経CNBC「昼エクスプレス」等のレギュラーコメンテーターを務めるなど、情報メディアへの執筆・出演も多数。2023年からはNewsPicksプロピッカーとして「THE UPDATE」などに出演中。

(著書)
「時代の「見えない危機」を読む ――迷走する市場の着地点はどこか」(2020年、慶應義塾大学出版会)

黒瀬レポートはこちら

(経歴)

  • ―1987年 慶応義塾大学 商学部を卒業後、大和銀行(現りそな銀行)に入行
  • ―1990年 ダイワ・オーバーシーズ・ファイナンス(香港)を皮切りに一貫して証券投資業務に従事
  • ―1996年 公益財団法人国際金融情報センターで米国担当シニアエコノミストに従事
  • ―1999年 信託財産運用部(現りそなアセットマネジメント株式会社)にて、一貫してエコノミスト、ストラテジスト業務に従事

〈当資料に関するご留意事項〉

  • 当資料は、投資環境や投資に関する一般的事項についてお伝えすることを目的にりそなアセットマネジメント株式会社が作成した情報提供資料です。
  • 当資料は、投資勧誘に使用することを想定して作成したものではありません。
  • 当資料は、当社が信頼できると判断した情報をもとに作成しておりますが、その正確性・完全性を保証するものではありません。
  • 運用実績および市場環境の分析等の記載内容は過去の実績および将来の予測であり、将来の運用成果および市場環境等を示唆・保証するものではありません。
  • りそなアセットマネジメント株式会社が設定・運用するファンドにおける投資判断がこれらの見解にもとづくものとは限りません。
  • 当資料に指数・統計資料等が記載される場合、それらの知的所有権、その他の一切の権利は、その発行者および許諾者に帰属します。
  • 当資料の記載内容は作成時点のものであり、今後予告なく変更される場合があります。