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やさしく解説 “りそにゃ”のお金のギモン 人生100年時代の生活とお金

第38回 ストライキと賃上げ

最近ニュースによく出てくるストとは何ですか?

正式名はストライキで、労働者が団結して労務の提供を拒否することだよ。

会社員なのに上司の指示に従わないで、そんなことして良いのですか?

スト権は労働者の正当な権利なんだ。

ストやスト権の存在を初めて知りました。

それだけ時代背景が変わったという事だよ。

それは良い変化なのですか?

雇用は契約です。契約に当たっては、職務内容、賃金など処遇、休暇や職場環境など条件を定めます。多くの場合、毎年のこの契約の見直しに当たり、労働者は労働組合に加入して労働組合が企業との交渉窓口になります。これを団体交渉と呼びます。そして、団体交渉で契約条件がまとまれば良いのですが、決まらなかったら何が起こるのでしょうか。その一つが、労働者が団結して労務の提供を拒否するストです。平たく言えば団結した職務停止です。ストは決して違法ではありません。憲法で定められた労働者の正当な権利です。

近年、世界中でストが発生しています。欧州の鉄道やバスなどの公共分野、米国の自動車会社や宅配事業者などのストは、社会への影響の規模から大きなニュースとなりました。ただ、労使協調路線が定着する日本では、企業買収など特殊な事例を除くとまだまれです。

ストが発生するようになった原因は二つあります。一つはインフレで、多くの人は生活水準が低下しました。労働者にしてみれば、賃上げで補填ほてんしてほしいと思うのは無理もないことです。もう一つは人手不足です。これにより労働者と企業の力関係が逆転と言える程に大きく変化しました。景気が悪く失業率が高くて人手が余っている状況では、スト実行のハードルは高いです。そんなことをしたら、不利益を受けることがあるかもしれません。しかし、コロナ禍の後、世界的に人手不足となりました。人手不足となれば、企業より労働者の立場は強くなります。結果として労働者側は強気の交渉が可能になるのです。

ストは経済をまひさせる要因になります。従って、決して望ましいことではありません。その意味でストを回避する労使協調路線は日本企業の強みです。世界的な人手不足は、日本企業の強みが発揮しやすい環境になったとも言えるのです。と同時に、立場が強くなる労働者にとっても相応の賃上げも期待できます。日本企業の労使双方にとって、構造的な追い風になると見て良いと思います。

(埼玉新聞 2023年10月30日掲載)

チーフ・エコノミスト/チーフ・ストラテジスト 
黒瀬 浩一

黒瀬浩一

1999年より20年以上にわたり、エコノミスト/ストラテジストとして資産運用業務に一貫して従事。「りそなの顔」としてBSテレビ東京「日経+9」、日経CNBC「昼エクスプレス」等のレギュラーコメンテーターを務めるなど、情報メディアへの執筆・出演も多数。2023年からはNewsPicksプロピッカーとして「THE UPDATE」などに出演中。

(著書)
「時代の「見えない危機」を読む ――迷走する市場の着地点はどこか」(2020年、慶應義塾大学出版会)

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(経歴)

  • ―1987年 慶応義塾大学 商学部を卒業後、大和銀行(現りそな銀行)に入行
  • ―1990年 ダイワ・オーバーシーズ・ファイナンス(香港)を皮切りに一貫して証券投資業務に従事
  • ―1996年 公益財団法人国際金融情報センターで米国担当シニアエコノミストに従事
  • ―1999年 信託財産運用部(現りそなアセットマネジメント株式会社)にて、一貫してエコノミスト、ストラテジスト業務に従事

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