1999年より20年以上にわたり、エコノミスト/ストラテジストとして資産運用業務に一貫して従事。「りそなの顔」としてBSテレビ東京「日経+9」、日経CNBC「昼エクスプレス」等のレギュラーコメンテーターを務めるなど、情報メディアへの執筆・出演も多数。2023年からNewsPicksプロピッカーに就任。資産形成Webメディア「finasee(フィナシー)」にコラムを連載中。
(著書)
「時代の「見えない危機」を読む ――迷走する市場の着地点はどこか」(2020年、慶應義塾大学出版会)
やさしく解説 “りそにゃ”のお金のギモン 人生100年時代の生活とお金
最近、景気回復が息切れ気味だと聞きましたが、本当ですか?
そう、景気指標に少し陰りが出始めた。
理由は何ですか。
最大の要因は本年度の賃上げが不十分だったからだと思う。
物の値段は上がっているのに、賃金は上がっていないって聞きます。
その差を実質賃金と呼ぶ。去年からずっとマイナスが続いている。
来年に期待ですね。
夏場以降の景気に少し陰りが出ています。原因は、経済再開後の消費の急回復が一巡、全国旅行支援の終了、夏場のガソリン高などもありますが、最大の要因は不十分な賃上げです。インフレで物価が上がったのに対し、賃上げが追い付かないため、庶民の生活は切り詰めざるを得ないのが実情です。
とはいえ、景気後退を懸念するほどではありません。企業収益は過去最高、自動車は挽回生産でフル稼働、ゼネコンは数年先まで工事の受注が積み上がっています。観光地はインバウンドで満杯状態です。企業から見て景気は抜群に良いのです。
企業は史上最高益を出しているのに社員の賃金はさえない、ここに問題があるのです。企業の立場からすると、過去の経緯としてやむを得ない面はあります。1990年代の不良債権処理や2008年のリーマンショックで多くの企業自身が存亡の危機に立たされました。多くの利益を出して経営の安定度を高めたいと考えるのは当然です。一方、社員としても、経営の安定度が高まった暁には、社員に多めの分配をしてほしいと思うのは人情というものです。
日本企業がこうした状況に置かれたのは実は戦後3回目です。最初は戦後直後で、社員の賃上げを抑制して経営を立て直しました。あのトヨタでさえこうして経営の危機を乗り切りました。2回目は1970年代の石油ショックの時代です。社員は高インフレの時代に賃上げを我慢して経営の立て直しに協力しました。そして、見事に省エネ技術の確立や経営の合理化に成功して、日本企業は世界的に飛躍しました。そして、2度とも経営が立ち直った後に、しっかりと賃上げが実施されています。日本企業はこうした労使協調路線が得意なのです。
欧米は少し違って、労使が対立してストライキを起こす例が、昔も今も散見されます。日本人は今こそ労使協調路線を思い起こし、「企業収益と賃金の好循環」を実現すべき局面にあります。ただし、企業収益は業種と規模で格差があり、公正取引委員会の指導に沿ってもう一段の進捗が望まれます。
(埼玉新聞 2023年12月25日掲載)
1999年より20年以上にわたり、エコノミスト/ストラテジストとして資産運用業務に一貫して従事。「りそなの顔」としてBSテレビ東京「日経+9」、日経CNBC「昼エクスプレス」等のレギュラーコメンテーターを務めるなど、情報メディアへの執筆・出演も多数。2023年からNewsPicksプロピッカーに就任。資産形成Webメディア「finasee(フィナシー)」にコラムを連載中。
(著書)
「時代の「見えない危機」を読む ――迷走する市場の着地点はどこか」(2020年、慶應義塾大学出版会)
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