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やさしく解説 “りそにゃ”のお金のギモン 人生100年時代の生活とお金

第44回 デフレ時代が懐かしい?

最近、賃上げの報道を良く見ます。

春闘の前に経営側が高い賃上げ方針を示す異例の展開になっている。

本年度は本当に賃上げがあったのですか。

あった。しかし、物価の伸びには追い付いていないため、ほとんどの人が実感はないと思う。

デフレ時代の方が良かったなんて話も耳にしますが…。

物価が下がれば賃上げがなくても実態は賃上げと同じだからね。

そもそも、日本銀行が目標とする物価2%は本当に良いことなのですか。

経済発展という意味ではそう言える。

元々政府が目標としたのは、物価上昇率2%、賃上げ率3%でした。これなら物価を加味した実質的な賃上げは1%になります。しかし、2023年度の実質的な賃上げ率はマイナスでした。まだデータが出そろってないので概算ですが、物価上昇率は3.5%、賃上げ率は1.5%ぐらいになりそうです。つまり、物価を加味すると賃金は実質的に減ってマイナスだったのです。

デフレ時代は全く状況が違いました。イメージとしては、物価上昇率がマイナス1%、賃上げ率が0%です。実質的に賃金が増えていました。

インフレは年金生活をする高齢者層にも不評です。年金額の増加率がインフレ率よりも低いからです。

一方、インフレによって企業は利益をかさ上げしました。以前に当コラムでも取り上げたのですが、企業収益は過去最高です。内閣府は個別企業の決算書を連結決算のように合算した法人企業統計を発表しています。企業規模や業種によって少し差異はあるものの、全規模全産業の経常利益は過去最高です。

そこで24年度の賃上げに向けて期待感が高まっています。植田日銀総裁は経団連での講演で「はっきりとした賃上げ」を呼びかけました。連合は春闘で「5%以上」の賃上げを求める方針を決めました。早くも一部の大手企業は7%や10%など高めの賃上げの方針を示しています。中には初任給を40%も上げると発表した企業もあります。

今後は物価の減速が順調に進むとみられています。物価を加味した実質賃金は、賃上げに加えて物価の減速も加わるため、プラスに転換する見通しが立ちつつあります。

デフレはコストカット型経済と表裏一体で「縮み志向」を招きます。早く脱却して「賃金と物価の好循環」「企業収益と賃金の好循環」を実現すれば、拡大志向が定着して経済発展に資すると思います。

(埼玉新聞 2024年1月29日掲載)

チーフ・エコノミスト/チーフ・ストラテジスト 
黒瀬 浩一

黒瀬浩一

1999年より20年以上にわたり、エコノミスト/ストラテジストとして資産運用業務に一貫して従事。「りそなの顔」としてBSテレビ東京「日経+9」、日経CNBC「昼エクスプレス」等のレギュラーコメンテーターを務めるなど、情報メディアへの執筆・出演も多数。2023年からはNewsPicksプロピッカーとして「THE UPDATE」などに出演中。

(著書)
「時代の「見えない危機」を読む ――迷走する市場の着地点はどこか」(2020年、慶應義塾大学出版会)

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(経歴)

  • ―1987年 慶応義塾大学 商学部を卒業後、大和銀行(現りそな銀行)に入行
  • ―1990年 ダイワ・オーバーシーズ・ファイナンス(香港)を皮切りに一貫して証券投資業務に従事
  • ―1996年 公益財団法人国際金融情報センターで米国担当シニアエコノミストに従事
  • ―1999年 信託財産運用部(現りそなアセットマネジメント株式会社)にて、一貫してエコノミスト、ストラテジスト業務に従事

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