1999年より20年以上にわたり、エコノミスト/ストラテジストとして資産運用業務に一貫して従事。「りそなの顔」としてBSテレビ東京「日経+9」、日経CNBC「昼エクスプレス」等のレギュラーコメンテーターを務めるなど、情報メディアへの執筆・出演も多数。2023年からNewsPicksプロピッカーに就任。資産形成Webメディア「finasee(フィナシー)」にコラムを連載中。
(著書)
「時代の「見えない危機」を読む ――迷走する市場の着地点はどこか」(2020年、慶應義塾大学出版会)
やさしく解説 “りそにゃ”のお金のギモン 人生100年時代の生活とお金
最近、円高が進んでいるよ。
なぜ円高になっているのですか。
二つ背景がある。一つは、相互関税の発表で米国の金融市場が混乱したことでドル売りから円高になった。
米国の金融市場が混乱すると円高になるのですね。
その通り。もう一つは、トランプ政権が政策的にドル安に誘導しようとしているのではないかという思惑がある。
そんなことできるのですか。
プラザ合意など過去にもあった。米国の目的は貿易赤字の削減だと見られているよ。
今年に入って通貨高になったのは円だけではありません。ユーロ、カナダドル、英国ポンド、スイスフランなど多くの先進国通貨が上昇しました。これはドル安を反映しています。
4月2日にトランプ大統領が発表した関税の大幅な引き上げは、世界に大きなショックを与えました。その結果、米国でトリプル安が発生しました。トリプル安とは、ドル安に加えて株安と債券安(金利高)が同時に発生することです。今回のトリプル安の原因は、一言でいうと全面的な米国売りです。国際ルールを無視して一方的に関税を引き上げる国なら、他に何をしでかすか分からないという不安が金融市場を覆っています。そして、投資家による米国から資産を引き揚げる動きが、米国売り、そしてトリプル安につながっているのです。
米国が貿易収支を改善したいのなら、政策的にドル安に誘導するのは自然な流れです。というのも戦後のドルの歴史は、そのためのドル安の歴史でもあるからです。例えば、1971年のニクソン・ショック、85年のプラザ合意、2000年代のリーマン・ショックの後に米国が通貨戦争を仕掛けたと批判されたドル安誘導ーなどです。そして、今回のドル安誘導の思惑は、フロリダにあるトランプ大統領の邸宅にちなんで「マールアラーゴ合意」と呼ばれています。
しかし、戦後のドル安誘導による貿易収支改善の試みは全てうまくいきませんでした。ドル安は、貿易収支改善のための条件のほんの一部です。ほかに、米国の過剰消費体質の改善や製造現場での勤労意欲の回復など必要な条件を伴っていなかったからです。相手国に非を押しつけるだけでは問題は解決しないのです。
今後の焦点は、米国と各国との相互関税の引き下げ交渉です。米国が関税の大幅な引き下げなど譲歩を余儀なくされる可能性があります。その場合、米国の貿易収支を改善する代替の手段としてドル安に誘導するリスクがあることには注意が必要です。
(埼玉新聞 2025年5月11日掲載)
1999年より20年以上にわたり、エコノミスト/ストラテジストとして資産運用業務に一貫して従事。「りそなの顔」としてBSテレビ東京「日経+9」、日経CNBC「昼エクスプレス」等のレギュラーコメンテーターを務めるなど、情報メディアへの執筆・出演も多数。2023年からNewsPicksプロピッカーに就任。資産形成Webメディア「finasee(フィナシー)」にコラムを連載中。
(著書)
「時代の「見えない危機」を読む ――迷走する市場の着地点はどこか」(2020年、慶應義塾大学出版会)
(略歴)
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