1999年より20年以上にわたり、エコノミスト/ストラテジストとして資産運用業務に一貫して従事。「りそなの顔」としてBSテレビ東京「日経+9」、日経CNBC「昼エクスプレス」等のレギュラーコメンテーターを務めるなど、情報メディアへの執筆・出演も多数。2023年からNewsPicksプロピッカーに就任。資産形成Webメディア「finasee(フィナシー)」にコラムを連載中。
(著書)
「時代の「見えない危機」を読む ――迷走する市場の着地点はどこか」(2020年、慶應義塾大学出版会)
やさしく解説 “りそにゃ”のお金のギモン 人生100年時代の生活とお金
日本政府の借金は、残高が巨額な上にさらに毎年大きく増加している。
将来が不安です。
でも状況としては改善傾向にある。
毎年借金が増えているのに改善するのですか。
インフレのおかげでそうなるんだ。
どういうことですか。
日本の国と地方を合わせた政府の借金は先進国では最も悪い状況です。借金は二つに分けて考えるべきです。毎年の借金額とその結果として毎年積み上がる残高です。
日本の国内総生産(GDP)はざっと630兆円です。そして、毎年の借金の増加額が30兆円前後、借金残高が約1330兆円あります。GDP対比での日本の毎年の借金額、財務残高は、先進国では最も悪い部類に入ります。
ところが、近年の日本の財政状況は大きく改善しています。債務の返済能力は所得に依存します。1億円の借金は、普通の人には返せないような大変なことです。しかし、所得が極端に高い人にとっては、そんなことはありません。所得が50億円ある人にとっては1億円の借金は大した額ではないのです。
近年の日本はインフレのおかげでGDPが大きく伸びました。ここでのGDPはインフレ分を含む名目GDPです。日本の債務返済能力を加味した財政状況を示す債務残高/名目GDPでみると、近年は分母が大きく増加したおかげで改善したのです。
この問題が注目されたのは7月の参議院選挙の後でした。自公政権が敗北したことで野党が主張した政策である消費税減税やガソリン税減税が実現すれば、もっと日本の財政状況が悪化する可能性があると懸念されたのです。しかし、7月に格付け会社のS&Pグローバルレーティングは、日本の財政状況にはバッファー(緩衝材)があるため、政策変更で信用力指標が多少悪化したとしても「今後2~3年で格下げにつながるとは考えていない」と発表しました。日本の財政が改善傾向にあることをバッファーがあると表現したのです。繰り返しになりますが、バッファーは主にインフレによって生まれたものです。
このようにインフレは、政府部門には恩恵をもたらしました。では庶民生活への影響はどうでしょうか。個人が抱える住宅ローンについては、春闘での高い賃上げもあり、政府財政と同じで恩恵を受けています。しかし、賃金は違います。インフレを加味した賃上げ率はいまだマイナスのままです。ここに日本経済の課題があります。
(埼玉新聞 2025年10月6日掲載)
1999年より20年以上にわたり、エコノミスト/ストラテジストとして資産運用業務に一貫して従事。「りそなの顔」としてBSテレビ東京「日経+9」、日経CNBC「昼エクスプレス」等のレギュラーコメンテーターを務めるなど、情報メディアへの執筆・出演も多数。2023年からNewsPicksプロピッカーに就任。資産形成Webメディア「finasee(フィナシー)」にコラムを連載中。
(著書)
「時代の「見えない危機」を読む ――迷走する市場の着地点はどこか」(2020年、慶應義塾大学出版会)
(略歴)
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