多くの資産価格が世界中で上がっています。株価は多くの国で史上最高値圏です。住宅価格は資材価格や人手不足による人件費高騰もあり、多くの先進国で大きく上がっています。ほかにも上がっているのが金やプラチナなど貴金属の価格です。また、日本ではポケモンカードなどのドレーディングカード、リゾート会員権、米国ではベースボールカードなども値上がり傾向にあります。

価格が不自然に大きく上がると、何かのきっかけで急落するリスクがあるのではないかという懸念が社会全体に出るものです。多くの場合、それはご意見番の識者から出されます。しかし、昨今の世界で顕著なのはご意見番の不在です。メディアで識者が意見を述べると、うまい具合に切り取られて炎上するなど自由な言論を妨げる風潮があることが関係しているのかもしれません。

こんな中、10月に入って立て続けに市場が急変するリスクに対する警告が出されました。国際通貨基金（IMF）の金融安定化報告、英国の中央銀行である英国銀行の金融政策決定会合の議事録、日銀による金融システムレポートなどです。金融関係からこうした警告が出されるのは理由があります。もし本当に市場が急変してバブル崩壊のようになれば、金融機関の経営や金融システムの安定が損なわれる可能性が高いからです。

ただ現時点では、市場が急変する懸念はまだ一部にとどまっているようです。社会全体では、利上げや増税など政策によって資産価格の上昇を抑制すべし、という合意はあまりないと思います。しかし、警戒するに越したことはありません。この価格上昇は何かがおかしいと多くの人が思うのなら、それはバブルの要素が入り込んでいる可能性があります。金融経済学者の見解は、「そもそもバブルは弾けた後に初めて分かるもの」でほぼ一致しています。

石橋をたたいて渡るのは合理的な思考と行動です。しかし、石橋をたたき壊して渡れなくなってしまっては、逸失利益が生じます。投資においてリスクとリターンのバランスをうまく取ることが肝要だと思います。

（埼玉新聞 2025年11月25日掲載）